高齢化が進むにつれて、需要の増えている訪問理容。理容室での営業とは異なる点も多いです。訪問理容を始めようか検討している人のなかには、どのような点が異なるのか気になっているという人もいるでしょう。
そこで本記事では、訪問理容を実際に始めるためには、どのような準備が必要かを、資格・道具・集客方法など、さまざまな面から解説します。
まずは資料をご覧ください
目次
訪問理美容師とはどんな仕事?
訪問美容師・理容師は、対象として認められた人のもとを訪れて、美容や理容のサービスを行います。サービスの提供内容は主にヘアカットやシャンプーなどですが、理容師の場合は顔そりを行う場合もあります。
ほかにも、ウィッグカットやハンドケア、フェイシャルエステなど、施術内容はさまざまです。
訪問理容の対象とは?
そもそも美容室や理容室は、衛生上の問題から、原則として届けを出している店舗でのみ、サービスを行うこととされています。例外として法律で認められている対象の人やシチュエーションでのみ、サービスを提供してよいと定められているのです。
なお、対象とならない人に対して訪問理美容の施術を行った場合は、美容師法または理容師法違反となります。発覚した場合は業務停止の可能性もあるため、どのような人が訪問理美容の対象となるかはしっかりと把握しておきましょう。
サービスの対象となる人やシチュエーションについて、以下に詳しく解説していきます。
引用元
厚生労働省|理容師法施行令第4条第1号及び美容師法施行令第4条第1号に基づく 出張理容・出張美容の対象について
厚生労働省|理容師・美容師の懲戒処分等の基準
要介護認定の高齢者や障害者など、理美容室を訪れるのが難しい人
【疾病その他の理由により、美容所に来ることができない者に対して美容を行う場合】
認知症や寝たきりなどの高齢者、身体・精神障害者など美容室や理容室に足を運ぶことが難しいと認められる方が対象となります。また、その本人だけでなく介護や育児などの理由でも認められる場合があります。
ただし高齢や障害があるというだけでは認められない場合があるので、注意が必要です。保健所や役所などで確認してみるといいでしょう。老人ホームや障害者施設などの社会福祉施設において、その入所者に対して美容・理容サービスを提供することも認められています。
介護・育児をしている人
【常時、育児または介護を行っている者に対して美容を行う場合】
自宅等で乳幼児の育児や要介護状態にある家族の介護を常時行っている場合も、訪問理美容の対象となります。
ほかの家族からの援助が受けられない場合や、行政によるサービスの利用が困難で、家族を自宅に残して外出すると、その安全確保ができないと判断される場合に認められます。
結婚式などのヘアメイク
【婚礼その他の儀式に参列する者に対してその儀式の直前に美容を行う場合】
結婚式の会場に出向き、花嫁や参列者にヘアメイクなどを行う場合も、美容師法の例外として認められています。そのほか、演劇や映画・ドラマ撮影などの楽屋でのヘアメイクも認められています。
ここで注意しなければいけないのは、「直前のみ認められている」ことです。事前のリハーサルや前撮りなどでの出張美容サービスは禁止されていますので、当日のみ可能となります。
離島や山間部など理美容室がない地域
【山間部等における理容所・美容所のない地域に居住する者に対して、その居住地で施術を行う場合】
山間部や離島など、行ける範囲に理容室・美容室がない場所に住む人や、災害などにより仮設住宅などに避難している人を対象に理美容のサービスを行う場合です。
いずれも「都道府県、保健所設置市または特別区が条例で定める場合」とされていますので、都道府県や市役所、保健所などに確認が必要となります。
訪問理容師に必要な資格・知識とは?
訪問理容師は、高齢化社会が進むにつれて、さらにニーズが高まっていくことが予想されます。しかし、理容所を構えて営業する場合との違いについては、あまり広く知られていないかもしれません。
ここでは、訪問理容師として働くために必要な資格・知識について紹介します。
必須資格は「理容師免許」
施術場所が店舗でも訪問先でも、理容師として働く際は理容師免許が必須です。
訪問理容師になるためには、訪問理容サービスを提供している店舗等への就職、もしくは開業といった方法がありますが、どちらの場合も理容師免許は欠かせません。
理容師免許を取得するためには所定の養成所で2年もしくは通信教育で3年にわたってカリキュラムを修め、国家試験に合格する必要があります。
引用元
厚生労働省|理容師法概要
あると心強い「介護の知識」
訪問理容師として働く際、介護関連の資格は必須ではありません。しかし、基礎的な介護知識を持っておくことで、施術の際に配慮すべき点を理解できたり、お客様の移動を介助できたりといったメリットがあります。
「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)」など、介護についての入門的な内容が学べる研修や講習を受講してみても良いでしょう。
専門性を高める「訪問理美容に関する民間資格」
訪問理容師は、理容師免許以外に必須の資格はありません。
しかし、民間資格の取得を通して寝たきりの方への施術など、通常の理容所施術では行わない内容の知識・技術が習得できます。
訪問理美容に関する代表的な資格が下記の2つです。
- 一般社団法人日本訪問福祉理美容協「訪問福祉理美容師」
- NPO法人日本理美容福祉協会「福祉理美容士」
「訪問福祉理美容師」は対面での講座を通じて、訪問理美容で使用する道具や介護に関する基礎的な知識のほか、施術の流れや施術後の掃除のポイントについても学びます。修了試験などは設けられておらず、1日の講習受講で認定資格の取得が可能です。
「福祉理美容士」は、申し込み後に送付されるテキストによる学習に加え、2日間のスクーリングを経て認定されます。スクーリングでの座学では、訪問理美容の営業ノウハウについてもカリキュラムにふくまれています。
いずれの資格も、理容師または美容師の免許を取得済みの人が主な資格取得対象です。
引用元
一般社団法人日本訪問福祉理美容協会|資格認定制度について
NPO法人日本理美容福祉協会|養成講座ご案内
訪問理容師として活動するために必要な準備
訪問理容師として活動するためには、訪問理容を行っている企業に雇われるか、開業をするかの2択になります。ここからは訪問理容師として開業するために必要な申請や届出について解説していきます。
開業に必要な書類の提出
訪問理容師として開業する際には、開業届を提出します。店舗の事業拡大として行う場合も、既存の店舗とは別の事業所名で訪問理容を始める場合には開業届を提出しましょう。
通常、美容所や理容所を開設する際には保健所への届け出が必要となりますが、訪問理容の場合は各自治体によってルールが異なります。理美容師の免許を持っていれば届け出が要らない自治体もあるため、開業する地域の自治体ルールに沿って手続きを進めましょう。
訪問理容に必要な機材や道具
出張理容の際に携行するものが「出張理容・出張美容に関する衛生管理要領」によって、出張理容の際は下記の器具等を携行することが義務付けられています。
- 洗浄及び消毒済みのはさみ等の理容器具・美容器具と、これらを衛生的
かつ安全に収納できるもの - 使用済みのはさみ等の理容器具・美容器具を、安全に収納できるもの
- 消毒された布片類・タオルと、これらを衛生的に収納できるもの
- 外傷に対する救急処置に必要な薬品及び衛生材料
- 手洗いに必要な石ケン、消毒液等
また、上記のほかにも訪問理容の際に必要な機材や道具があります。ここでは具体的にどのような機材や道具が必要かを紹介します。
引用元
厚生労働省|出張理容・出張美容に関する衛生管理要領について
1.移動式シャンプー台・専用の椅子
店舗では当たり前にある設備ですが、訪問理容の際は持参する必要があります。
ただしこれは必須ではなく、訪問先のお風呂場や洗面台をお借りしたり、ドライシャンプーを活用したり、提供メニューにシャンプーを含まないなどさまざまな方法があります。
移動式シャンプー台・専用の椅子で10万円ほどですので、事業が軌道にのってから準備してもいいかもしれません。
2.掃除道具
訪問理容の際は、施術後に使用した場所を掃除するため、必ず掃除道具を持参します。なるべく髪の毛などが飛び散らないよう、ビニールシートや養生シートなどを敷いた上で施術するケースが多いです。
掃除のためには主に下記のアイテムを持参します。
- 掃除機
- ほうき・ちりとり
- ビニールシート(レジャーシート)
- 粘着カーペットクリーナー
- ゴミ袋 など
3.施術道具
提供する施術メニューにもよりますが、シザーセットやバリカン・コーム・カットクロスなどは欠かせないでしょう。また、カラーやパーマの施術も行う場合はその材料も必要です。
訪問理容の際に便利な、バリカンやクシと吸引ホースが一体となっている道具もあるため、お客様が寝たきりの人や車いすの人が多い場合は、導入を検討してみても良いかもしれません。
4.その他
施術道具や掃除道具のほか、おつりや領収書、顧客カルテや記入のための筆記用具も必要です。
また、予約台帳があれば、施術後そのまま次回予約を入れてもらう際にも確認しやすいでしょう。この際、紙の台帳ではなく予約管理システムを導入していれば、出先でもスマホやタブレット端末から確認できるため便利です。
訪問理容を開業する際の資金相場
どの程度装備を充実させるかによっても開業資金は変わりますが、最低限で始めるなら携行品や名刺の準備だけですので、5万円ほどから始められるようです。
はじめからシャンプー台やバリカン付きのバキュームなど訪問理容専用の道具も揃えるとなると、その分が加算されます。
また、集客のためのホームページやチラシの作成を業者に依頼する場合や、訪問理容に関する講座やセミナーを受講する場合はその費用も必要となります。さらに、車の購入が必要か否かによっても、費用は大きく変わります。
訪問理容の開業費用の目安は100万円ほどとも言われていますが、どの程度の道具や機材を揃えるか、業者に依頼するかによって、開業資金は変わるでしょう。
訪問理容の集客方法
訪問美容・理容で開業するときにどうやって集客すればいいのかわからないと頭を悩ませるかもしれません。ここからは、訪問理美容師がどうやって集客すればいいのか、営業先の提案や集客方法について紹介していきます。
介護施設・障がい者福祉施設への訪問
効率的に営業をする先として、以下の施設が重要となります。
- 社会福祉施設
- 地域包括支援センター
訪問理美容のサービス対象者が主に高齢者や障がい者なので、社会福祉施設への営業がまずはポイントとなります。また、ケアマネージャーは高齢者など支援が必要な方と介護サービス事業所とをつなぐ役割を担っているため、ケアマネージャーとつながっておくことも大切です。
ケアマネージャーはその地域で訪問美容の支援が必要な方を把握しているため、紹介をしてもらうことで顧客の獲得につながります。
地域包括支援センターは、地域の65歳以上の高齢者と高齢者支援の活動に関わっている方が利用する施設です。ケアマネージャーとつながるためには、地域包括支援センターへ足を運んでみるのがおすすめです。
ホームページやブログ作成
高齢者など支援が必要な方のお世話をしている家族などが、まずはインターネットで検索をすることが考えられます。そのために窓口の一つとして、ホームページやブログを開設しておくといいでしょう。
ブログで実際のサービス風景などを掲載したり、準備できる装備や段取りなどを詳しく解説したりしておくことで、利用者は安心してサービスを頼むことができます。
SNSを利用する場合は、facebookがおすすめです。ほかのSNSに比べて実名登録や出身校登録などの機能があるため信用を得やすく、60~70代の利用者がもっとも多いSNSなので、高齢者に向けて発信するならfacebookが最適です。
実店舗での宣伝
訪問理容と実店舗の両方を運営している場合は、実店舗のお客様に宣伝する方法もあります。
店舗に来店しているお客様の家族・知人に訪問理容の利用を検討している人はいないか聞いてみたり、店舗内にポップやチラシを置いたりするなどして、訪問理容を行っていることを来店したお客様に宣伝しましょう。
口コミや紹介
口コミや紹介は、店舗での集客にも有効な手段で、特に知り合いや身内からの紹介は確実に顧客につながりやすいといえます。
ケアマネージャーとのつながりもそうですが、介護福祉士の知り合いなどがいると心強いですね。まったくそのような知り合いがいない場合、福祉系のセミナーに行ってみる、いっそ資格取得をして、講習などを通じて知り合うなどの方法もおすすめです。
チラシ・ポスティング
チラシやポスティングといった一般的な手法も有効です。チラシを作製する場合、対象者をしっかりとイメージしたデザインが重要となります。
介護と美容の要素を入れつつ、サービス内容や施術内容などがしっかり伝わるチラシ作成を心がけましょう。信用を得るためにこちらの人柄や経歴がわかる内容の掲載や顔写真をのせるのもおすすめです。
ポスティングをする場所も高齢者が多い地域などをリサーチするなど、できるだけ絞り込んで配ることも大切です。
フランチャイズ
既に知名度のあるフランチャイズに加盟するというのも選択の一つです。美容室と同様に、訪問理容に関しても、フランチャイズが存在しています。
フランチャイズでの開業に関しては、下記の記事でも紹介しています。
まずは資料をご覧ください
入念な準備と効果的な集客で訪問理容をはじめよう
訪問理容師として開業する際には、理容所の開設とは異なった準備が必要となります。また、施術でお客様の自宅や施設を訪問する際に必要となる道具類や、訪問理容ならではの集客方法も知っておく必要があるでしょう。
さらに、施術の勝手も理容所とは異なるため、必須ではありませんが介護資格や訪問理容に関する民間資格などの取得もおすすめです。
道具などは事業が軌道にのってから徐々に買い足す方法もありますが、届け出や集客などは入念に準備し、増加の見込みがある訪問理容のニーズにこたえていきましょう。