美容師として独立して自分の店を持つことは、美容師にとって目標のひとつ。美容室を開業するにあたっては、保健所や税務署への届出提出をはじめ、さまざまな手続きが必要です。
この記事では美容室の開業について必要な届出や提出先、開業手続きの手順について解説します。開業を考えている方は、準備を始める前に一度目を通していただければ幸いです。
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目次
美容室の開業に必要な書類はどこに提出するの?
美容室の開業には、いくつかの書類を提出することが必須です。事業を開始するわけですから、はじめに思い浮かぶのは税務署ではないでしょうか。実は、美容室を開業するための届出は、他にもさまざまな機関へ提出しなければなりません。
保健所や税務署といった、書類を提出する必要がある機関について見ていきましょう。
保健所での開業手続きの流れと必要な書類
まずはじめに、保健所での開業手続きの流れと必要な書類について見ていきましょう。保健所の管轄は地方自治体なので、地域によって規定が違うことがあります。今回は、東京都を例に紹介します。
事前相談
まず、各種書類を提出するまえに、一度保健所に事前相談が必要です。法律や条例に基づく構造設備の基準や、衛生管理上の基準が適用されるためです。
施設の構造はもちろん、施設の面積や床材や腰板材に用いる素材、消毒設備・消毒済み器具の保管場所、照明の明るさ、換気など、美容所としてさまざまな基準に適合した構造になっているかを確認する必要があります。
そのため、できれば工事着工前の相談が望ましいです。美容室として利用する施設の平面図か、施設がビル内にある場合は施設付近の見取り図を持参しましょう。
必要な書類を用意する
事前相談が終わったら、後述する施設の検査日までに、必要な書類を用意して提出します。保健所に提出する必要がある届出・書類について詳しく紹介します。
開設届
まず、開設届が必要となります。開設届は保健所で入手するか、東京都福祉保健局のホームページでダウンロードします。開設者の住所・氏名、施設の名称、所在地など店舗に関する情報を記入します。
開設届は、新しく美容室を開設する他にも、開設者の変更や法人化する場合、施設の移動・移転、大規模な増改築時にも提出する必要があります。
従業者名簿と従業者に関する書類
次に必要なのは、美容室で働く従業者の名簿です。これは他の美容師を雇用せず、一人美容室の場合も必要です。従業者名簿には、従業者の氏名と資格取得日などを記入します。
従業者が美容師免許の資格を持っている場合は、美容師免許証、管理理美容師の修了証の原本が必要となります。
有資格者は医師の診断書も必要!
美容師免許の有資格者は、医師の診断書も提出する必要があります。あらかじめ、結核・伝染性皮膚疾患の有無がわかる、3ヶ月以内に発行された医師の診断書を発行してもらいましょう。
医師の診断書は様式に規定がありません。病院で発行してもらった形のものを提出して問題ありません。
施設の検査
保健所への事前相談と各種書類の提出をしたら、施設の検査が行われます。内装まで工事が完了した施設を保健所の職員が訪れ、設備基準等に適合しているかを検査します。
作業室のスペースが規定の面積を有しているか、作業室と待合席が明確に区別されているか、消毒のための設備や流水装置が設置されているかなどが検査されます。
また、消毒用の器具や備品、ゴミを保管するための蓋付き容器が設置されているかなどもチェックされます。
もしも不適合とされてしまうと、設備や備品の是正が求められます。施設の構造自体の改善を求められてしまうこともあるので、入念に準備しましょう。
確認済証の交付
保健所職員の検査に適合すると、いよいよ開店することができます。後日、確認済証が発行されるので受領印(認印で良い)を持って受け取りに行きましょう。郵送を希望する場合は、送付先を記入した、対面受け取りの赤いレターパックプラスを用意します。
これらの手続きは自治体によっては細かな点が異なりますので、管轄の保健所に相談をしてみてください。
消防署での開業手続きの流れと必要な書類
美容室を新たに開設する場合、保健所の規定を満たしているかどうかだけでなく、消防設備に関する基準に適合している必要もあります。
テナントを借りて開業する場合は、開業7日前までに「防火対象物使用開始届出書」の提出が必要です。さらに、改装や修繕を行うなら、着工の7日前までに「防火対象物工事等計画届出書」も必要です。
内装工事を請け負う業者が代行している場合も多いので、一度相談してみると良いでしょう。
入居施設の規模や条件によって必要な届出が変わりますので、どんな届出が必要なのか、管轄の消防署へ相談しておきましょう。必要な書類は最寄りの消防署へ行くか、消防庁のホームページからダウンロードすることで入手できます。
税務署での開業手続きの流れと必要な書類
ほとんどの場合、美容室を開業するのは営利目的です。収入によって所得税を納めなければならないため、新たに事業を始める場合は税務署へ届出を提出する必要があります。ここからは、税務署に提出する必要がある書類について見ていきましょう。
必要な書類を入手する
まず、税務署へ提出する必要のある書類の入手をしましょう。個人事業で美容室を開業する場合は、「個人事業の開業・廃業等届出書」が必要です。その他にどんな書類が必要なのかは、税務署で相談できるため、不安なら訪れておくと良いでしょう。
必要書類は税務署で直接入手するか、国税庁のホームページでダウンロードできます
個人事業の開業・廃業等届出書の記入例
実際に、国税庁ホームページでダウンロードした個人事業の開業・廃業等届出書を見ながら、記入例を書類左上から紹介します。
・提出先、提出日
提出する税務署名と、届出を提出する日付を記入します。管轄する税務署は、国税庁ホームページで確認することができます。
・納税地、住所
提出先、提出日から右の欄に移りましょう。
納税地の住所を書く欄には、「住所地・居住地・事業所等」のチェック項目があります。住所地は実際に住んでいる住民票の住所、居住地は住所地とは別に住んでいる場所、事業所は自宅以外で事業を行っている場所です。
自宅で開業する場合は住所地、自宅以外にテナントを借りて開業する場合は事業所等に丸を付けましょう。
・氏名、生年月日、個人番号、職業、屋号
開設者の個人情報を記入します。個人番号は「マイナンバー」のことです。職業の欄には「美容業」「美容室」などと記入します。屋号は店の名前を記入しましょう。
・届出の区分、所得の種類、開業・廃業等日
続いて、「個人事業の開廃業等について次のとおり届けます。」と書かれた下の欄を見ていきましょう。
届出の区分は、新しく開業するのですから、「開業」に丸を付けます。所得の種類は「事業」です。開業・廃業等日は「開業する日付」を記入します。届出を提出する日ではありませんので注意してください。増設や移転、廃業に関する欄は、新規に開業する場合は無関係ですので空欄で構いません。
・開業・廃業に伴う届出書の提出の有無
「青色申告承認申請書」を提出する場合は「有」、しない場合は「無」に丸を付けます。青色申告承認申請書については、後ほど詳しく解説します。
「消費税課税事業者選択届出書」を提出する場合は「有」、しない場合は「無」に丸を付けます。大抵の場合、消費税は開業直後あまり関係ないので「無」で問題ないでしょう。
青色申告を希望する場合は「青色申告承認申請書」も提出しよう
青色申告を希望する場合は、前述した「青色申告承認申請書」を一緒に提出する必要があります。「青色申告承認申請書」は、税務署で直接入手するか、国税庁ホームページでダウンロードできます。
青色申告をするメリットは?
青色申告を行うと、税額控除が65万円まで受けられたり、備品や消耗品の購入費用が経費としてみなされるようになったり、赤字を最長3年まで繰り越せるといったメリットがあります。
白色申告よりも、帳簿の記入や書類の作成に手間が掛かってしまうというデメリットはありますが、節税の面においてはそれを上回る恩恵があります。青色申告承認申請書を提出しておく方が良いと言えるでしょう。
都道府県税事務所での開業手続きの流れと必要な書類
美容室を開業したら、都道府県税事務所に「事業開始等申告書」を提出する必要があります。東京都の場合は開業してから15日以内ですが、提出する期限は都道府県によって違うため、都道府県税事務所に確認をしておきましょう。
「事業開始等申告書」は、提出し忘れても罰則などは特にあるわけではありませんが、提出しておくにこしたことはありません。
法人化したり従業員を雇ったりする場合は?
ここまでは、個人事業主で一人美容室を開業する場合の届出や手続きについて紹介してきました。法人化したり従業員を雇ったりする場合には、さらに書類を提出する必要があります。詳しく見ていきましょう。
法人設立時に必要な書類と提出先
個人事業主から法人へ変更する場合は、法人を設立するための書類を提出しなければなりません。
まず、定款を作成して、公証役場で公証人の認証を受けておきます。定款認証が終わったら、法務局で商業・法人登記します。法務局で法人登記が受け付けられた日が、会社の設立日になります。
税務署へは、美容室を開業した際に提出した「個人事業の開業・廃業等届出書」をもう一度提出する必要があります。個人事業の廃業の理由を「法人の設立に伴うものである場合」とし、記入欄に法人名や法人納税地などを記入します。
税務署へは他に、「法人設立届出書」と「法人税の青色申告の承認申請書」も提出します。必要な各種届出書や添付書類については、法務局や税務署で相談してみてください。また、必要な手続きの代行を、司法書士や弁護士のような専門家に依頼しても良いでしょう。
従業員を雇用する時に必要な書類と提出先
自分以外に従業員を雇用する場合も、書類を提出する必要があります。
まず、税務署へは「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出します。
税務署以外にも、労働基準監督署へ「労働保険関係成立届出」と「概算保険料申告書」、ハローワークへ「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」。
さらに日本年金機構へ「健康保険・厚生年金新規適用届」「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」など、さまざまな書類を提出する必要があります。
こちらも各種機関の他、税理士や社会保険労務士、行政書士のような専門家に相談するとスムーズに手続きができるでしょう。
規模が大きな場合は消防署への届出も必要
店舗の規模によっては、消防署へ「防火・防災管理者選任(解任)届出書」を提出する必要があります。具体的には、スタッフ・お客様含めて30名以上収容可能という規定になっています。
最寄りの消防署で防火管理講習を受講すれば防火管理者資格が取得できるので、あらかじめ受講して資格を取得しておきましょう。届出を提出する際に、防火・防災管理講習修了証の添付が必要となります。
届出の不備には注意!悩んだら各機関へ相談しよう
届出に不備があると開業予定日に開業ができなかったり、施設の構造改善を求められたり、そもそも開業許可が降りなかったりと、さまざまな罰則の可能性が考えられます。
そのため、書類不備や提出忘れには細心の注意を払い、わからなかったら各機関の窓口で相談するか、専門家への依頼も考慮にいれてください。事前に入念な準備をして、予定通り美容室を開業できるよう、スムーズに手続きをしましょう。
引用元サイト:
個人事業の開業届出・廃業届出等手続-国税庁
所得税の青色申告承認申請手続-国税庁
商業・法人登記申請手続-法務局
給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出-国税庁
労働保険の成立手続-厚生労働省
新規適用の手続き-日本年金機構
防火・防災管理者選任(解任)届出について-東京消防庁